Morikatron Engineer Blog

モリカトロン開発者ブログ

CEDEC2020の補足 ー格闘ゲーム編その3ー

どうも、モリカトロンのプログラマおじさん、岡島です。 CEDEC からだいぶたってしまいましたが、前回 からの続きで 接待プレイについての補足などをしていこうと思います。

「接待」について

まず最初に CEDEC 講演中にも質問のあった「接待」という言葉について私見をまとめておきます。

「接待」という言葉があまり良くないんじゃないかというご意見もありますが、Weblio 辞書によると 言葉そのものには見返りを求めるようなニュアンスはなく、単に客をもてなすことという意味だそうです。

www.weblio.jp

利益関係の強い得意先をもてなす、ある種のワイロのような「接待」をイメージされがちではありますが、 後述するように「接待ゴルフのように勝たせてくれるAIが欲しい」と思いで研究をしていたので、思い入れがある「接待」という言葉を使い続けようと思います。

”利益関係の強い得意先をもてなす、ある種のワイロのような「接待」”を行うAIが実現できるなら それはそれで凄いことだと思いますし、 そういう思考が出来るAIがあったら使いたいと思う方も多い気がします。

そもそもなんで接待プレイをAIにさせたかったのか

接待プレイをするAIが欲しいと思ったのは、CEDEC2019 で弊社が講演した

cedil.cesa.or.jp

の研究を(他のメンバーが)行っていた頃にさかのぼります。

当時僕は学習が進んだAIがどの程度の強くなったのかを確認するために、何回もAIと対戦してAIのウデマエを確認するお手伝いをしていました。
要するに業務時間にゲームをしていただけなのですが、学習が進んで強くなったAIと対戦するとだいたいボロ負けすることになり、これを何回も繰り返すのは結構シンドイ。
では毎回勝てる方が面白いかというとそうでもなく、学習が進んでいない弱いAIと対戦しても、あっさり勝ちすぎて面白くありません。

そんな時に強く思ったのが、ただ強いのではなく、噂に聞く接待ゴルフのように相手を楽しませつつ気持ちよく勝たせてくれるAIの必要性でした。 当時はどうやったらそれを実現できるか見当もつかなかったけれど、AIが強いのはわかったので適切な手加減をして欲しいというのが率直な気持ち。 ついでに負けてもらいたい! 俺は勝ちたいんだ…

そんなことを思っていたら、弊社 馬淵がWANNという技術を見つけてきて、なんやかんやで二人で接待プレイをするAIを研究することになった次第です。
(ここを掘ると長くなるので割愛)

接待プレイの中身について

接待プレイに関する技術的なことは CEDiL にアップロードした資料の 付録2-3 でだいたい説明しています。

cedil.cesa.or.jp

付録に書かれている通り、接待の仕方も学習するAIという事ではなく、「AIの反応速度」、「下位方策の性能」、「上位方策の性能」のそれぞれをゲームの状況に応じて変化させるようなロジックを組んでいます。 これはある種のメタAIと言えないこともないと思いますが、1980年代からシューティングゲームによく実装されていた「ランクシステム(解説)」の方が近いかなって思っています。

原理的には「学習後に調整ができるAI」なので接待以外にも

CEDEC ではゲーム中に動的にパラメーター調整することで「接待プレイ」が出来ることを推していましたが、我々が行っていたのは原理的には「学習後に調整できるAI」の研究です。 調整は対戦中にも行えるので、状況に応じて調整すれば接待プレイが実現可能なのですが、ゲーム中に戦い方を変えたくないという場合にも使える技術になっています。

強化学習は AI が勝手に学習して強くなっていくような仕組みなので、AIはゲームクリエイターが「こうなってほしい」と望む成長をするとは限りません。 つまり要望に忠実なAIになるとは限りませんので、クリエイターが出来上がったAIに対して「ここをこうしたい」と要望することが容易に想像できます。
そのような要望に迅速に対応できるように「学習後に調整ができるAI」を作ろうというのも本研究の大きな目的です。

最後に

今回は格闘ゲームを使って研究をしましたが、それ以外の対戦ゲームでもある程度勝てたほうが楽しいというのは間違いないでしょうから、初中級者向けに「接待プレイしてくれるAI」がオンライン対戦の場に混ざるようになっていくんじゃないかなと勝手に思ってます。 接待プレイAIがオンライン対戦に混ざれば、プレイヤー全員が勝ち越すことも出来るでしょうし、力量に差のあるプレイヤー同士をマッチングさせる必要も減るでしょう。 また、マッチングの時間も短縮などの効果もありそうです。

という事で、この分野が盛り上がるといいなぁと思っております。接待プレイの導入をお考えの方は、是非弊社にご相談ください!