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モリカトロン開発者ブログ

神様のゲーム#2

「定義話は続くよ、どこまでも」

 

人間のDNAの塩基数は30億個(x2対)である。塩基3つで1つのアミノ酸を定義するとすると、単純計算で、30億÷3=10億個のアミノ酸が定義されている!となるが、実はそうではない。

残念なことに?DNAには、アミノ酸を定義していない並びがある。ビーズのある部分は、全くアミノ酸を定義してない。なんの役に立っているのかわからないため「ジャンク配列」などと呼ばれている。

一方、アミノ酸を定義している部分にも名前がついている。それが「遺伝子」である。

つまり「遺伝子」とは、「DNA」の中でアミノ酸を定義している部分、ざっくり言えば「役にたつ部分」ということだ。

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さて、このジャンク配列がどのくらいの割合であると思われるか?10%20%はたまた50%?

いやいや人間の場合、なんと98%がジャンク配列と言われている。残り2%がアミノ酸の定義などをしている。(など、というのは、アミノ酸の定義以外にも機能があるためであるけど、その話は割愛する)

神様がそんなムダをするか?

素人の自分だけじゃなく、科学者もそう思って、このジャンク配列の研究が熱心に進めらており、最近、ようやく少しジャンク配列の機能の役割がわかりだしてきた。これも興味深い話なので、忘れなかったらいつか書く。

ちなみに、
ジャンク配列がもっとも少ない(ムダがない)生き物?はウイルスと言われている。

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注意してもらいたいのは、3つの塩基(これを「コドン」と呼ぶ)つまり1つのアミノ酸の定義が1つの遺伝子というわけではない。

いくつかのアミノ酸の組み合わせ(これがタンパク質となる)の定義する部分を遺伝子とよぶ。

実際はもっとややこしい話だが、ざっくりそんなイメージで理解してもらって間違いはないだろう。

ちなみに、人間の遺伝子の数は2万5千個程度と言われている。

筆者が最初にこの手の本を読み出した30年くらい前には10万個と言われていたから、ずいぶんと減ったものだ。

人間の形から各種機能まで2万5千個の「コマンド」で定義していることになる。

身長、体重、髪の毛、目、肌の色、禿げやすさ、太りやすさなどの身体的特徴パラメータから、セロトニンの再吸収率、白血球の生産量、免疫活性力、胃液量の調整、インシュリンの生産量などなど、生命現象全てのパラメータを2万5千個のコマンドで決めている。

そんな少ない数のパラメータで人間全体をコントロールできているのも驚異的だし、そんな膨大なパラメータのバランス調整をしているというのも驚異的である。

(これを可能にしているのには、絶妙なからくりがあるのだが、その話もちょっとややこしいので、別の機会に)

人間の遺伝子が2万5千個なら、他の動物はさぞ少ないだろうと思われるかもしれないが、これがまた違うのである。

カエルは2万5千個、鶏は1万5千個、ミジンコは3万1千個の遺伝子がある。

動物に限らず人間以上の遺伝子数を持っている植物もたくさんある。

いつもお世話になっているイネの遺伝子数は3万2千個と、人間の遺伝子数より多い。

生物としての複雑さと遺伝子の数が比例しないなんて、わけわからんと思うが、注意が必要なのは、遺伝子の種類ではなく数であるということだ。

DNAには同じ遺伝子が複数個存在することが多くある。これを重複遺伝子という。3万個の遺伝子と言っても同じ遺伝子が1万個あれば遺伝子の種類は3種類である。こんな極端な例は実際にはないが、下等動物で遺伝子の数が多いのは、重複遺伝子が多いためというのが真相のようだ。

 

同じ遺伝子を複数個もつ意味がわからん。という方もいるかと思うが、これは2つの意味で大切である。

1つは、ざっくり言えば、その遺伝子を複数個もつと、そのパワーが複数倍するとうことだ。遺伝子がアミノ酸を作る、ひいてはタンパク質を作る命令だと考えれば、タンパク質が複数倍作られるということだから、そう考えると納得もいく。ここでもまた実際にはもっと複雑な仕組みになっているので、こうシンプルに言い切れないのだが、とりあえず、イメージとしては間違っていない。

ちなみに、スーパーにならんでいるバナナは原種の3倍体である。遺伝子どころかゲノム全体を3セット持っているのである。ゲノムが倍増されたのに比例して大きくなったり甘くなっている。なんとわかりやすい仕組み。バナナに限らず、農作物となった植物ではふつうに見られる現象だ。小麦にいたっては40倍体である。

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2つめの意味は、実験ができることである。

命に関わるような遺伝子である場合、突然変異等でその部分を改変するのは大変リスクがある。よりよくなる可能性より壊れてしまう可能性がはるかに大きいからだ。同じ遺伝子が他にあれば、仮に1つの遺伝子が改変で壊れてしまっても、大事にはいたらない。バックアップになってくれるわけだ。そのため、積極的な「実験」をすることができる。これが進化の原動力になっている。

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AIモデルの一つに「遺伝的アルゴリズム」という遺伝子レベルでの生物の進化の仕組みを模したAIがある。このAIには、基本的には重複遺伝子の概念が組み込まれていないので、せっかく獲得したよい遺伝情報が破壊されてしまうことが多い。AI研究開発を生業としている会社さんには是非このあたりを研究してもらいたい。

って、うちか!

 

さて、残り「ゲノム」と「染色体」の定義も軽く。

「ゲノム」(genome)は、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から作られた造語で、その定義はちょっとフワッとしていて「遺伝情報の全体」ということになっているので、ほぼほぼ「全部の遺伝子」のことと考えて間違えない。

「染色体」の名の由来は、ある試薬に染まって色がつくことからきている。色がつくので観察しやすいわけだ。

DNAは4色の玉を30億個つなげたビーズアクセサリーと説明した。

1個1個の玉(塩基)がいかに小さいと言ってもさすがに30億個つながると長い。途中で切れたり絡まったりする危険が大きい(実際、そういう事故も多い)ので、そういう事故を防ぐためか、DNAはあらかじめいくつかに切り分けられている。人間の場合には、23×2対=計46本に分けられている。23×2対と書いたのは、23種類×両親分2セットという意味だ。精子、卵子は、23種×1セットとなる。じゃないと受精卵になるたびにセット数が増えていってしまう。

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ものすごく長い毛糸の糸があったとして、それを46本に切って、それぞれを毛玉のようにまとめたもの、それが染色体である。ちなみに、30億個の塩基がつながったDNAの長さは1.8mにもなる。これが直径0.006mmの大きさの細胞核の中に収まっている。うまく詰め込んだものだ。

ちなみに、人間には37兆個の細胞があるので、全DNAをつなぐと、太陽系の半径くらいの長さとなる。

短く区切った神様の気持ちがよくわかる。

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どのくらいに分割するかも、DNAの長さとの相関関係はなさそうだ。

たとえば、

人間=塩基30億個:染色体46本

金魚=塩基1800万個:染色体104本

トウモロコシ=塩基23億個:染色体10本

シアノバクテリア=塩基7200万個:染色体1本

といった感じ。法則性はなさそうだ。

※数値は推定値なので、違う数値が示されている場合がある

 

ということで、ウイルスの「ウ」の字にもたどり着かないところで果てた。

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                まとめの図

実は、進化はダーウインの進化システムだけではうまく進まない。ウイルスの力が必要だった。

次回はそんな話を。

 (つづく)
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