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神様のゲーム#4

「ウイルスがいてこその進化」

 

生物の進化は、DNAの交配、突然変異、自然淘汰によるものだと書いた。

ところがこれだけでは、うまく進化が進まないことがわかっている。
もっと長い時間をかければそれでも進化できるのかもしれないが、なんたって、地球の寿命(っていうか太陽の寿命)は残り半分、あと約50億年程度しか残っていない。あまり、悠長な進化はしていられない。
面白いことに、DNAの交配、突然変異、自然淘汰のアルゴリズムを元にした「遺伝的アルゴリズム」というAIでも、同じ現象が起こる。突然変異は、せっかく獲得した優秀な遺伝子を壊してしまうので、それを避けるために突然変異率を0%にするとAIの学習の「進化」がうまくいかない。

進化のアルゴリズム以外に、神様は「同じ動物間でしかDNAの交配はできない」というルールを作った。いくらライオンの強さがほしいからと言ってもライオンと人間の間では子供はできない。
ゲームとして考えたときにも都合がよい。よく「交配」要素を入れると生まれるキャラの種族の数が爆発してドツボに落ちることがある。
例えば、10種類のキャラがどのキャラとの交配できるとすると、10x10=100種類のキャラが生まれることになる。ゲームで言えば100種類作らないといけないことになる。さらに次の世代では、単純計算で100x100種が誕生することになり、世代が進めばは指数関数的に増えていってしまう。
地球上には〜3000万種程度の種類の生き物がいると言われている。哺乳類に限っても〜5,000種程度いると言われている。哺乳類同士なら交配OKよとすると誕生する動物は次の世代だけでも5,000x5,000=25,000,000種類となる。次の世代では、これはさすがにキャラ担当の神様もうまくないと思ったに違いない。

近い種族間の交配を除いて、このルールは厳密に守られている。その縛りが進化のダイナミクスを奪っている。人間同士、ほぼ同じDNAである。少し混ぜたり変えたりしたところで、とんでもない変化が起こるとは期待しにくいということだ。実際、人と人のDNAの違いは0.1%、人間にもっとも近いと言われるチンパンジーの間での違いは1.2%程度と言われている。素人目に見てもその部分を混ぜ合わせたりしてもたかがしれてそうというのは、なんとなくわかる。

もっとも、逆に、0.1%でこんなに違いが出るのか…とアスリートやイケメンを見て愕然ともしているのだが。

さて、生き物を自律的に進化させる仕組みを考えた神様も、これでは進化が冗長になって(ゲームとして)まずいと感じたのか、特別ルールを作った。

「ウイルスは、生物間をまたいでDNAのやりとりをしてよい」

この特別ルールを理解してもらうためには、ウイルスが宿主のDNAの一部を持ち去ってしまう仕組みを知ってもらう必要がある。 

先に書いたように、ウイルスが宿主の細胞に侵入すると、宿主の設計図(DNA)の間に自分の設計図を挿入する。そして、自分の設計図だけを実行させ、自分を増やす。この際、挿入された箇所の左右の宿主のDNAを一緒に切り取って、自分の設計図と一緒に持ち出してしまうことがある。こうして増殖したウイルスは、本来の自分のDNA+宿主のDNAの一部をもった、感染前と違ったウイルスになる。(※ウイルスによってはDNAではなくRNAだが、そのあたりの詳細は割愛する)

偶然、うまいところに挿入して、うまい範囲を切り取れば、ジャンクでなくちゃんと機能する遺伝子を持ってこれてしまう。

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一方、宿主の設計図に自分の設計図を挿入したものの、プログラムミス?で、自分の設計図を実行できないマヌケなウイルスもいる。このウイルスはほとんど再活性化できないので、そのまま宿主のDNAの一部と化してしまい、宿主とその子孫に受け継がれて言ってしまう。これをウイルス配列という。

こうしたことは結構頻繁におこったみたいで、人間のDNAにもウイルス由来と思われる部分が多数見つかっている。多い見積もりでは30%がウイルス由来であると言われる。

ちなみに、DNAの中のウイルス由来の箇所を探す学問を「ウイルス考古学」という。

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さて、この2つの働きが組み合わさると面白いことが起こる。

動物Aに感染したウイルスは、動物AのDNAの一部を持ち去ることがある。そのウイルスが動物Bに対しても感染能力があり、うっかり活性化できないまま動物BのDNA中に組み込まれてしまうと、結果的に動物AのDNAが動物BのDNAに組み込まれることになる。

こうして、「同じ動物間でしかDNAの交配はできない」というルールを破らないまま、違う動物間でのDNAのやりとりが可能になる。
これを遺伝子の「水平伝播」と呼ぶ。

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この仕組みによって、同じ動物の間では手に入りようもなかった「スキル」を他の動物から手に入れることができるようになり、ダイナミックな進化が可能となった。ほ乳類に不可欠な臓器である胎盤の設計図もウイルスが持ち込んだものと言われている。

コンピュータソフトウエア開発の世界に「伽藍とバザール」という言葉がある。

伽藍とはウインドウズOSのような巨大企業が作った体系的に開発されたプログラムを、バザールは、リナックスOSのように、いろんな人がモジュールを持ち込んでくみ上げたプログラムを意味している。パラダイムシフトを起こすような進化は、後者の方が起こりやすいんちゃうというような話だ。

ウイルスによる進化(補助)も後者にあたるようなところがある。

ウイルスは、単純な構造ゆえ、生物より前に誕生したと考えられがちだが、実は違う。ウイルスの誕生については諸説あるが、主に、細胞のゲノムの一部が独立してウイルスになったという「細胞脱出説」とそもそも独立に進化したという「独立起源説」である。
どちらにせよ、ウイルスから生物が進化したわけではなさそうで、最初の生物の誕生より後に誕生したわけだ。

 つまり、ゲームデザインの神様が、進化のスピードが、同種族のDNAの交配と突然変異だけでは冗長で変化に乏しすぎるので、ウイルスによる「水平伝播」仕様を追加してダイナミックにしたと妄想できる。

このあたりの話をもっと文化系脳で理解したい人には、よい電子書籍がありますぞ!

 「テロメアの帽子」

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